(前回の続き)
こういう時に天は味方をしてくれない。
私が唯一といっていいほど、目を皿にしてでも見たいお魚ちゃんであるカエルアンコウ、しかもちょっとレアな「クマドリカエルアンコウ」である紅白柄の「シロクマ」、黒に水玉模様の「クロクマ」が、今この雲見の海に揃って降臨されているようだ。
雲見のダイバー達は皆、浮き足立っていた。
そしてシロクマクロクマ達は、そこそこ水深が深いところにいるらしい。
ああ!なんで今日なのか!!
足の痛みがめちゃくちゃ不安だが、潜れないわけでないのだ。
無駄に楽観的な私の悪いクセが顔をだした。
レアなカエルアンコウをこの目で見てみたい!!
既に自分を抑えきれなかった。
スルスルと、シロクロクマちゃんに会うために潜水していく。
ガイドさんがカエルアンコウを見つけて合図をするまでは、無理して深く潜らずに根の上で待っててくださいという指示だったのにも関わらず、春日はガイドさんと一緒に潜っていき、海底で南蔵院の仏像みたいになっている。

春日・・・すっかり調子に乗ってんな。
いやいや、今は人のことを気にしている余裕はないはずだ。
ふと残圧計を見ると・・目を疑った。
潜水して11分で、まさかの残圧120しかないのだ。
なんで!!!
カエルアンコウ達はまだ見つからない。
私は岩につかまりながら、完全に震え上がっていた。
もはや足の痛みすら感じなくなっていた。
カエルアンコウ達が見つからなかったために場所を移動するようだ。
うう、残圧厳しいよう。
ガイドさんの遥か上をそろそろと泳いでついていく。
しばらくして、ガイドさんが「シロクマ、ここ!!」とサインを送ってきた。
どうやらいる場所は自分の位置よりかなり深いところだ。
タイミングを見計らって、スルスルとシロクマちゃんのところへ潜っていく。
ぶはっ。かわええ。可愛すぎる。
鮮やかな紅白柄に仏頂面のミスマッチがたまらん!!

たった3秒くらいだけ視界に入れて、ゆっくりと浅いところへ移動する。
今度はクロクマちゃん探しだ。
クロクマちゃんが見つかるまでは、絶対にエアを持たせなくてはならない。
自分のエア切れで、探索中断だけは絶対に避けたいところだ。
また浅めの所で待っているが、今度はなかなか見つからない。
ああ、残圧が・・どんどん減っていく。こえぇぇぇ。
もう駄目だ。申告しよう、と思ったその時に、だいぶ深いところから合図が聞こえた。
やっとクロクマちゃんが発見された模様。
見ると残圧は40。ダメだ。
今、クロクマちゃん見るために深く潜ったら一巻の終わりだ。
私は、チームの人が皆クロクマちゃんの撮影を終えたタイミングで、ひょうきん族の神様のように手で大きなバツを作り「もう潜れない」と泣く泣く知らせた。
そんなハンドシグナルがあったかどうか、でも、もうどうでも良かった。

え、もうですか?
ガイドさんの驚きの様子が、水中でもきちんと伝わって来る。
では浮上しましょう。
ああ、すいません。すいません。
ほんとすいません。
見事なまでのダメダイバー復活ダイブだった。
なんと初心者の足まで引っ張ってしまった。
春日のログブックには、見えるか見えないかくらいの小さな文字で、中学生のように「ほんとすいませんでした」と書いておいた。
◇
まず私はしなければならないことは、足を治癒させることだ。
猛省して、しばらくは海には潜らずに完治させようと誓った。
そして、春日よ。
またどこかの海で会おう。リベンジだ。(なんの?)
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